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藤子・F・不二雄のSF短編と聞くと『ミノタウロスの皿』のように後味の苦い作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ところが、PERFECT版の第1話に置かれているのは、ダジャレで幕を閉じるナンセンス・コメディ『スーパーさん』です。
スーパーマーケットの娘がある日いきなりスーパーマンになってしまう、というシンプルな設定ながら、読み終えると笑ってしまう一篇です。大人向けの藤子Fを初めて読む人にもちょうどいい入口になるでしょう。
『スーパーさん』の作品データ
- 作者:藤子・F・不二雄(発表当時は「藤子不二雄」名義)
- 初出:『少女コミック』1968年(昭和43年)9月号
- 形式:読切のナンセンス・コメディ
- 収録:『藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉』第1集『ミノタウロスの皿』の第1話ほか
- ひとこと:主人公の顔は、赤塚不二夫を思わせるタッチで描かれています
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は、ある町の横町にあるスーパーマーケット「やすい堂」。その店の娘が、ある日なんの前触れもなくスーパーマンになってしまいます。怪力に飛行能力、X線のように透視する目と能力はひと通りそろっています。
ところが両親の反応はいまひとつで「女の子なのに」と困り顔です。そこへ町内会長が現れ「スーパーマンのいる店」として評判になるはずだと指摘すると、両親は一転して大喜び。「しっかり務めなさい」と娘をけしかけます。
けれども、当の本人はスーパーマンとして何をすればよいのかさっぱり分かりません。やる気だけは満々の少女が、ここから町中を巻き込んで空回りしていきます。
ネタバレありの展開とオチ
※ここから先は結末に触れます。未読の方は、次の「読んだ感想」まで読み飛ばしても構いません。
平和な町には、スーパーマンの出番になるような事件がそもそも起きません。手持ちぶさたの彼女は「善いこと」を探して張り切りますが、力の加減を誤って壁を壊してしまうなど役に立つどころか騒ぎの種になってしまいます。
そんな中、彼女はニセ札を密造していた3人組を見つけ出します(偶然)。思いがけない大手柄でマスコミの取材を受けることになり「スーパーマンになった感想を」と尋ねられた彼女は、うっかり自分の家の店名を口にしてしまいます。
この言い間違いが思わぬ大宣伝となり、やすい堂は大繁盛。儲けたお金でとうとうデパートまで建ってしまいました。すると、スーパーの娘だった彼女はデパートの娘になったことで「デッパ」に変わってしまう——というダジャレで、物語は幕を閉じます。
読んだ感想:ばかばかしい。でもさすが
📌 事件のない町にヒーローが生まれたら
ヒーローは、倒すべき悪や怪獣がいてこそ活躍できるものです。その「お約束」を逆手にとり、事件のない町に超人を放り込んだのが、この作品のおもしろいところだと感じました。活躍の場がないから空回りする、というヒーロー像はどこか哀愁もあり、笑いながらも少しだけ同情してしまいます。
📌 両親の手のひら返しが現金すぎる
娘の変身をはじめは嘆いていた両親が「店の宣伝になる」と聞いた途端にころりと態度を変える場面は、商売人の逞しさそのものです。主人公の戸惑いよりも家業の都合が優先される、この割り切りの良さが何ともいえません。
📌 オチのダジャレに全部持っていかれる
ここまでの騒動が最後のダジャレ的オチのための前振りだったと気づくと、さすがだなぁと思いました。主人公が赤塚漫画風というのも。深読みしようと思えばできるのかもしれませんが、まずは何も考えずに笑うのが正解でしょう。
📌 同じ巻のヒーロー作品と読み比べたい
PERFECT版の第1集には、『カイケツ小池さん』や『わが子・スーパーマン』など、ヒーロー像をひねった作品が一緒に収められています。『スーパーさん』で肩慣らしをしてから、続く作品の毛色の違いを味わう、という読み方もおすすめです。
『スーパーさん』が読める本
『スーパーさん』は、『藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉(1) ミノタウロスの皿』の第1話として読めます。同じ巻には『ミノタウロスの皿』も入っているので、藤子Fの大人向け作品の振り幅をまとめて味わえるのが魅力です。
藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿 【電子書籍】[ 藤子・F・不二雄 ] 価格:1320円 |
『スーパーさん』【まとめ】
『スーパーさん』は、事件の起きない町に生まれたヒーローの空回りを、最後のダジャレへ一直線に描いた短編です。重いテーマは出てきませんが、藤子・F・不二雄の発想の軽やかさがそのまま詰まっています。
短編集を開いて最初の数ページで、きっとこの町の空気に引き込まれるはずです。気になった方は、ぜひ本編でスーパーさんの奮闘と、あのオチを確かめてみてください。