藤子・F・不二雄『自分会議』あらすじ・感想

藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉

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もし、未来の自分が会いに来て「そのお金は僕に預けろ」と言ってきたら、あなたは素直に従えるでしょうか。しかも、10年後の自分、20数年後の自分、30数年後の自分が、それぞれ違うことを言い出したとしたら……。

藤子・F・不二雄のSF短編『自分会議』は、そんな状況を真正面から描いた作品です。アイデアは軽やかで、前半はコメディのようにも読めます。けれど、読み終えたあとに残る味はかなり苦い。タイムパラドックスと人間の欲を重ね合わせた強烈な一篇です。

この記事では、作品の基本情報とあらすじを紹介し、そのあとに感想をまとめます。結末に触れる部分は見出しで段階的に分けてあります。なお、作品の終盤はショッキングですので読む方によっては、とてもつらく感じられるかもしれません。

『自分会議』の作品データ

  • 作者:藤子・F・不二雄(発表当時は「藤子不二雄」名義)
  • 初出:『S-Fマガジン』(早川書房)1972年2月号
  • 形式:読切のSF短編(ブラックユーモア)
  • 主な収録:『藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉』第1集、『SF短編コンプリート・ワークス』第1巻『ミノタウロスの皿』、『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』第4巻など

「人は過去に戻れたら何をするのか、そして、その結末はどうなるのか」。このテーマは、藤子・F・不二雄が、さまざまな作品で繰り返し描いてきたものです。『ドラえもん』にもよく似た設定の話があり、読み比べるとその違いがとても興味深いのですが、それは感想のところで触れます。

あらすじ(ネタバレなし)

主人公は、一人暮らしを始めるために安いアパートの部屋を借りた貧乏学生です。ところが部屋に入った瞬間、強い既視感を覚えます。子供のころに見た夢——年齢の違う4人のおじさんが部屋の中で言い争っている夢——の舞台がまさにこの部屋だったのです。

お腹がすいても財布の中身はわずか。ぼやいていたそのとき、見知らぬ男が目の前に現れこう告げます。「ぼくは君だ」。男は、9年2か月後の未来から来た大人になった主人公自身でした。

ネタバレありの展開(結末の手前まで)

※ここから先は中盤の展開に触れます。未読の方は次の「読んだ感想」まで読み飛ばしても構いません。

未来の自分は、すでにタイムマシンを発明していました。そして、主人公がまもなく時価3億円の山林を相続することを告げます。その財産の上手な使い方を教えにきた、というのです。ところがアドバイスの中身は「山林を売って、そのお金をぼくに預けろ」というもの。過去の失敗を取り返したいというのがその理由でした。

そこへ、23年後の自分が現れます。「売ってはいけない。この先、猛烈なインフレが来て現金は紙くずになる」と主張しました。さらに、33年後の自分まで登場し「いずれ土地は国有化されるから今のうちに宝石に換えてぼくに預けろ」と迫ります。

三人とも、自分に都合のいい方法を「自分だから」という理屈で押し付けてくるばかりです。話し合いはまったく進みません。多数決を取っても二対二に割れて決まりません。そこで現在の主人公が提案します。もっと若い年代にも発言権があるはずだ——と。こうして幼い頃の自分がタイムマシンで連れてこられます。

【さらにネタバレ】結末について

※結末に触れます。初めて読む楽しみを残したい方は「読んだ感想」まで飛ばしてください。

連れてこられた幼い自分は、将来の自分たちの醜い金銭争いを目の当たりにします。「あれが自分の未来か」と絶望した少年は、自ら命を絶ってしまいます。すると、少年の存在が消えたことで、その後の人生である大人の自分たちもすべて消えてしまいました。残ったのは、誰もいないアパートの空き部屋だけ、というラストです。

冒頭の「子供のころの夢」がこの部屋の光景そのものだった、という伏線もここで回収されます。

読んだ感想:タイムマシンがあるならもっと何かできるだろ

📌 誰もが一度は思う「あの時こうしていたら」ができる状況

三人の未来の自分は、損をしている自分の状況を変えるべく過去の資産を自分のものにしようとします。よくあるパターンは、未来の自分が現在の自分に会いに来てひと悶着あるですが、不幸なことに全ての未来の自分が同時に集まってしまったということが面白アイデアと思いました。「あの時こうしたら」というのは今の自分だけではないというのがブラックユーモアを感じます。

📌 会議のドタバタが、笑えるのに笑いきれない

年齢の違う自分同士が、狭いアパートの一室で、ひたすら言い争う。その光景は設定だけ見ればほとんどコントです。ところが、顔が似ているぶん「これは自分の姿なのだ」と思うと滑稽を超えた醜さを感じます。

📌 『ドラえもん』の「あの話」と読み比べたい

『ドラえもん』には『ぼくを止めるのび太』という、時間の違う自分同士が揉めるお話があります。お小遣いの使い道をめぐって、複数ののび太が口論になる展開は本作とそっくりです。ところが、結末は大違いで、こちらはバカバカしい笑えるオチに着地します。同じ題材でも、子供向けと大人向けで、ここまで読後感が変わる。作者の描き分けの巧みさをあらためて実感できます。

📌 タイムパラドックスの仕掛けもよく練られている

未来の自分から教わったタイムマシンの作り方で、のちに自分がタイムマシンを作るという「存在の輪」。そして、過去の自分を消すと、自分も消えてしまうという「親殺し」のパラドックス。二つの有名な時間の謎が、短いページの中にぎゅっと詰め込まれています。SFが好きな方にもきっと読みごたえがあるはずです。

📌 同じ巻の作品も、あわせて読みたい

PERFECT版の第1集には「やり直し」を描いた『じじぬき』や、価値観のすれ違いを描いた『ヒョンヒョロ』なども入っています。読み進めるうちに藤子・F・不二雄が何度も「人間の本性」というテーマに立ち返っていることがよくわかります。

『自分会議』が読める本

『自分会議』は、藤子・F・不二雄のSF短編を集めたシリーズで読めます。選びやすいのは次の2種類でしょう。

  • 『藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉(1) ミノタウロスの皿』:本作は第9話です。『ヒョンヒョロ』『じじぬき』『ボノム=底ぬけさん=』など、初期の代表作が発表順に並んでいます
  • 『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス』第1巻『ミノタウロスの皿』:『ミノタウロスの皿』『わが子・スーパーマン』なども入った、B6判のシリーズです。

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感想(3件)

『自分会議』【まとめ】

『自分会議』は「未来の自分」という大人になって頼もしいはずの存在を、誰より厄介な他人として描いた短編です。笑いの形をとりながら、お金と欲が人をどこまで変えてしまうのかを静かに突きつけてきます。

あのアパートの一室で何が起こるのか。もしこれが自分だったら。ぜひ、ご自身の目で確かめてみてください。

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