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麻雀をすれば必ず振り込み、信号は決まって赤、タクシーを拾おうとすれば撥ねられる。ここまで運に見放されたらツラいですよね。
藤子・F・不二雄のSF短編『ドジ田ドジ郎の幸運』は、そんな男の部屋に、ある夜、奇妙なロボットが天井から落ちてくる話です。タイトルどおり幸運が舞い込むお話なのですが「んなことあるかい!」とツッコミたくなるけど科学の世界ではありうるというユニークな一遍です。
この記事では、作品の基本情報とあらすじを紹介し、そのあとに感想をまとめます。物語の核心に触れる部分は見出しで分けてありますので、未読の方はご注意ください。
『ドジ田ドジ郎の幸運』の作品データ
- 作者:藤子・F・不二雄(発表当時は「藤子不二雄」名義)
- 初出:『S-Fマガジン』(早川書房)1970年11月臨時増刊号
- 形式:読切のSF短編(単行本収録時に一部変更あり)
- 主な収録:『藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉』第1集、『SF短編コンプリート・ワークス』第1巻『ミノタウロスの皿』など
これまでの短編が主に漫画雑誌に載っていたのに対して、この作品はSF専門誌に掲載されました。そのせいか、確率や偶然といった科学的な言葉が数多く出る漫画です。
あらすじ(ネタバレなし)
主人公のドジ田ドジ郎は生まれつき運のない会社員です。麻雀をすれば必ず振り込み、犬には靴を持っていかれ、意中の女性にいいところを見せようとしても同僚に先を越されてしまいます。急いでタクシーを拾おうとしたら撥ねられることさえありました。
運命を嘆きながら床につこうとしたある夜、天井から奇妙なロボットが落ちてきてドジ郎の上にぶつかります。むっとして踏みつけたところ、ロボットは「今の衝撃で故障が直った」と言い出しました。名前は「ゴンスケ」。宇宙のあらゆる偶然や確率を平らにならす役所の係長を名乗ります。
ゴンスケがドジ郎の運勢を測ると、これまでに例のないほどの悪運の偏りが出ました。自分の職務怠慢のせいだと泣いて詫び「これまでの埋め合わせに、ツキまくらせてやる」と約束します。
ネタバレありの展開
※ここから先は物語の核心に触れます。未読の方は、次の「読んだ感想」まで読み飛ばしても構いません。
手始めにゴンスケは壊れた冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出して見せます。天文学的な確率ではあるものの起こりえないことではない、という理屈です。気分よく乾杯するふたり。ところがゴンスケは続けてこう言います。偶然は無限ではないのでどこかで埋め合わせがつく、と。
その頃、同僚のツキ山ツキ吉の家では冷蔵庫が火を噴いて火事になっていました。ツキ山はいつも要領よくツイている男でドジ郎の運のなさの陰で得をしてきた人物です。
翌朝、ドジ郎は「変な夢を見た」と思いつつ出社します。ところが道を歩けば財布が次々に落ちており、拾っては交番に届ける羽目に。信号は常に青、満員電車でもドジ郎が通る場所と座る場所だけぽっかり空きます。職場にはドジ郎と意中の女性のほか、なぜか誰も来ていませんでした。
自信をつけたドジ郎は、思い切って女性を日曜の海へ誘います。当日、海に来ていたのは偶然にもふたりだけでした。こうしてこれまでの不運を取り返すかのようにありえない幸運が続いていきます。
ただ、ゴンスケが言ったとおり、偶然には限りがあります。ドジ郎の幸運の陰で、別の誰かがその分の埋め合わせを受けているのです。物語の最後の場面(海に来ていたのは偶然にもふたりだけ)が、どんな印象を残すのかはぜひ本編で確かめてください。
読んだ感想:「運」のからくりを笑いながら見せられる
📌 前半の不運が容赦ない
麻雀、信号、タクシー、犬と、これでもかと不運が積み重なります。ところがドジ郎自身はそれに腹を立てたり人にあたったりしません。ぼやきながらも黙って受け入れている姿勢が、もしかしたら最悪の事態に見舞われないのかもと思いました。
📌 幸運の描写があまりにも具体的で楽しい
財布の山、青信号の連続、貸し切りの海。ひとつひとつの幸運が小さな日常の出来事として描かれているので、読んでいて自然に口元がゆるみます。くたびれた会社員が報われる爽快さがあります。
📌 「埋め合わせ」という発想が、あとからじわじわ効いてくる
ゴンスケの「偶然は無限ではない」という一言を境に、物語の見え方が変わります。幸運をもらう人がいれば、その分を引き受ける誰かがいる。この考え方は笑って読み進めたはずのシーンに別の意味を与えます。ただ明るいだけの単純な話ではないところが、この作品の奥行きだと感じました。
📌 偶然や確率の話としても読める
SF専門誌に載った作品らしく、偶然や確率をめぐる言葉が随所に登場します。量子論の「確率的な解釈」と結びつけて読み解く人もいるほどです。難しい知識がなくても楽しめる一方で、読み返すたびに新しい発見がある懐の深い短編です。
📌 同じ巻の作品と読み比べたい
PERFECT版の第1集には、怒らない男を描いた『ボノム=底ぬけさん=』や、怒りっぽい男の暴走を描いた『カイケツ小池さん』も入っています。「ふつうの会社員に、ふつうではない何かが訪れたらどうなるか」という切り口が、一冊の中で何度も変奏されていて読み比べがとても楽しいのです。
『ドジ田ドジ郎の幸運』が読める本
『ドジ田ドジ郎の幸運』は、藤子・F・不二雄のSF短編を集めたシリーズで読めます。選びやすいのは、次の2種類でしょう。
- 『藤子・F・不二雄SF短編〈PERFECT版〉(1) ミノタウロスの皿』:本作は第6話です。『スーパーさん』『カイケツ小池さん』『ボノム=底ぬけさん=』など、初期の作品が発表順に並んでいます
- 『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス』第1巻『ミノタウロスの皿』:『ミノタウロスの皿』『じじぬき』『ヒョンヒョロ』なども入った、B6判のシリーズです。
藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿 【電子書籍】[ 藤子・F・不二雄 ] 価格:1320円 |
『ドジ田ドジ郎の幸運』【まとめ】
『ドジ田ドジ郎の幸運』は、笑って読み終えたあとでふと自分の「運」についても考えたくなる。そんな少し不思議な読後感が残ります。
ゴンスケの言う「埋め合わせ」が物語をどこへ連れていくのか。結末その後を考えると面白いですよ。
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